犯罪に関連した裁判報道において、しばしば「無期懲役」や「終身刑」という言葉が使われており、日本国内の事件・裁判では「無期懲役」が、欧米諸国(特にEUなどの死刑廃止国)の事件・裁判では「終身刑」という用語が使われる傾向にある。このことでしばしば日本では終身刑が存在しないといわれることがあり、死刑存廃問題において終身刑の新設が提唱されることもしばしばある。さて、今回はそんな犯罪報道における無期懲役と終身刑の違いについて解説してみたい。
日本における無期懲役について
まずは、日本国内の「無期懲役」について説明したい。
「無期懲役」は日本の刑法(注: 2022年の改正で懲役刑および禁錮刑が拘禁刑に一本化されることが決まっているが、2023年9月時点では施行されていないため、本項目では懲役および禁錮刑として説明する)では死刑に次いで重い刑罰であり、対象となる犯罪も殺人をはじめとした極めて重大な犯罪が該当する。
無期懲役では「無期」は刑期のおわりが無い、すなわち一生涯にわたって刑罰が続くものを指し、「懲役」は刑務所への拘禁に加えて、刑務作業を義務付ける自由刑である。
日本においては無期懲役においても仮釈放の可能性はあり、法律上は10年の服役期間を満たすことで仮釈放の可能性は認められているが、仮釈放はあくまで一定の条件の上で残りの刑期を社会で過ごすものであるため、無期懲役刑の受刑者の場合は生涯にわたって受刑者としての身分を保持し、保護観察が続くことになる。また、遵守事項に違反したり再び犯罪を重ねた場合は仮釈放を取り消され、刑務所へ戻される。
仮釈放の実運用では1980年代までにおいては10〜20年の服役期間で仮釈放が認められた事例が相当数あったが、1990年代に入ってからは仮釈放の審査が厳格化し、それに伴い仮釈放が認められた受刑者の仮釈放までの平均服役期間が延びるようになり、2000年代後半では仮釈放時点での平均服役期間がほぼ30年を超えるようになった。
参考: 無期禁錮および禁錮と懲役の差異について
無期禁錮は、生涯にわたって刑務所に拘禁する刑罰であり、無期懲役とは違って刑務作業の義務がない点で差異がある(ただし、禁錮刑においても受刑者の希望で刑務作業を行うことができる)。これに伴って、刑罰の重さとしては無期懲役に次ぐものとなる。無期禁錮の対象となる可能性のある犯罪としては内乱罪や爆発物使用罪、爆発物使用未遂罪のみであり、少なくとも1947年以降は無期禁錮を言い渡された例は無い。
破廉恥罪(殺人や窃盗などの道徳的に非難されるべき動機に基づく犯罪)に適用される懲役刑に対して、禁錮刑は政治犯や過失犯などの非破廉恥罪に適用されるものと考えられていたが、今日では必ずしもそうなっているわけではなく、過失犯においても懲役が適用されることがある。
参考: 拘禁刑への一本化
日本においては自由刑として長らく刑務作業を義務づける懲役刑と義務のない禁錮刑が併存していたが、2022年に可決された刑法改正により、受刑者の改善・更生を行いやすくすることを目的に従来の懲役刑・禁錮刑を廃し、拘禁刑へ一本化される流れとなった。施行は2025年6月17日までの指定された日となる。
この背景としては、以下の点が挙げられるといわれている。
- 刑務所の受刑者のほとんどが懲役刑によるものであった
- 禁錮刑を言い渡された者の95%前後は執行猶予付きで、実刑判決を受けた者は極めて少ない
- 禁錮刑受刑者のほとんどが刑務作業を行っていた
- 上記の結果、実益の問題として懲役刑と禁錮刑を分ける利点がなかった
- さらに、懲役刑は刑務作業を義務づけたために、再犯防止教育を十分に行えていなかった
日本国外における「終身刑」について
日本国外の犯罪報道等で使われる、「終身刑」については、様々な例があるが、基本的には刑期の終わりのない自由刑のことを指す(= life imprisonment)。しかしながら、日本国外の終身刑は各国の刑法システムの差異から以下のパターンが認められる。
- 仮釈放を認めない終身刑 (絶対的終身刑, life imprisonment without parole, LWOP)
- 一定の服役期間を満たした受刑者に対して仮釈放の可能性を認める終身刑(相対的終身刑、日本における無期懲役および無期禁錮・無期拘禁に相当)
仮釈放を認めない終身刑を採用している国はアメリカ合衆国(一部の州を除く)、中国(重大な事件において)、英国(判決による)などがあるが、全体としては多数派というわけではない。
仮釈放を認める終身刑を採用している国は多く、仮釈放を認めない終身刑を採用している国のほぼ全てに加え、EU諸国(一部を除く)をはじめとした多くの国で導入している。最低服役期間は国によって幅はあるものの、およそ10〜30年が多いと言われている。
無期懲役と終身刑ではどんな違いがあるのか、また仮釈放を認めない無期刑を新設が望ましいかどうか
結局のところ、日本における「無期懲役」と日本国外における「終身刑」は仮釈放や恩赦がなければ生涯にわたって拘禁が続くという点で同じ概念を違う言葉で表しているにすぎないといえる。つまり、従って、日本においてはすでに「無期懲役」および「無期禁錮」、改正刑法施行後は「無期拘禁」として「終身刑」が存在しているといえる。
ただし、細かい点を除けば以下の様な差異があるのも事実ではある。
- 一部の国では仮釈放を認めない終身刑が存在する
- 仮釈放審査の対象となる最低服役期間は国によって差異がある
上記を踏まえた上で、仮釈放までの最低服役期間の延長や短縮、あるいは「仮釈放を認めない終身刑」(重無期刑)を新設したいというのでなければ終身刑設立の議論はおおよそ意味がなくなっているといえる。
また、「仮釈放を認めない終身刑」には受刑者が仮釈放されることなく、生涯を終えるまで刑務所に服役させることが保証される点で脱走等がなければ再犯を確実に防げることが利点としてあげられるが、一生出られないことが確定したという理由で、仮釈放の可能性のある無期刑受刑者や長期受刑者以上に自暴自棄になって処遇困難になる危険性を孕む問題も指摘されている。刑務所の秩序維持やコストの問題などの観点、仮釈放審査は厳格になされることを踏まえると、わざわざ仮釈放を認めない無期刑の新設の必要性は薄いのではと考える。
終わりに
今回は国内外の犯罪・裁判報道において「無期懲役」と「終身刑」という言葉があり、それによってしばしば意味合いとして混同されることがあることを踏まえて、日本における無期懲役と国外の終身刑について一通り説明してみた。海外の報道で出てくる終身刑が実は日本でも相当するものがすでに存在している一方、国の刑法システムに応じて仮釈放の有無で差異があり、必ずしも完全に同一で語れるわけではないが、 このことは踏まえておきたいところではある。
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