前回のGNU/Linuxディストリビューション選びの上での目安となるような記事を書いてからひさびさとなるディストリビューションに関する記事を書いてみた。今回は特徴や一部は登場経緯、サポート期間などの観点から主要なディストリビューションに関して記載してみたい。
Debian/Ubuntu系
Debian/Ubuntu系は、その名の通りDebian GNU/Linuxおよびそれから派生したUbuntuを中心とするディストリビューションの系統で、コミュニティーベースで開発が行われているDebian GNU/Linux、それを母体にカノニカルによる支援を受けて開発が行われているUbuntuを中心に、様々な用途に特化した派生ディストリビューションが多数登場している。
Debian GNU/Linux
Debian GNU/Linuxは、いわゆるDebian系の大本となるディストリビューションで、100%自由ソフトウェアであることを理念にコミュニティーベースで開発が行われているディストリビューションで、今日では多数で回っているディストリビューションの中でも老舗の一つとなっている。
Debianプロジェクトは1993年8月にイアン・マードックにより開始、1996年6月17日にバージョン1.1がリリースされ、紆余曲折を経ながら現在に至っている。
APT(Advanced Package Tool)によるパッケージ管理システムでソフトウェアの追加・更新・削除を容易に行うことができ、GUIによるデスクトップ用途からコマンドラインを使ったサーバ用途まで幅広い用途に対応することができる。初心者でも比較的容易に利用可能で、オンライン上での情報も比較的豊富である。
2009年からは新しいバージョンの公式リリースは2年ごとに行われる。
サポート期間はメジャーバージョンごとに分かれており、通常サポートは最初のリリースからおよそ3年、LTS(Long Term Support)が同じく最初のリリースから5年間。
Ubuntu
Ubuntuは、Debian GNU/Linux派生のディストリビューションで、カノニカルの支援を受けて開発が進められている。開発は2004年開始、最初のバージョンは2004年10月20日に公開された。
基本的にはDebian GNU/Linuxをベースにしているが、GNU/Linux初心者に配慮した作りになっており、デスクトップ用途ではブラウザやメーラー、オフィススイートなどの基本的なツールが同梱、標準ではrootでのログイン不可でsudoを使用する、などの変更が加えられている。
Debian GNU/Linuxからの直接ではなく、Ubuntuから派生したディストリビューションも多く、それに該当するディストリビューションの系統として「Ubuntu系」も豊富にあり、デフォルトのデスクトップ環境を変更したものや用途特化のものなどがある。
Ubuntu公式サイトからはデスクトップ用、サーバー用、IoT用、クラウド用などに特化したエディションがあり、それぞれの用途に応じて使い分けることができる。
新バージョンは4月と10月と半年ごとに公開、うち偶数年の4月がLTS番としてリリースされる。サポート期間は通常版が9ヶ月、LTS版は5年。通常版はおおよそ半年ごとに更新が必要になるが、新しい機能を積極的に利用したいユーザーに適するが、そうでない場合はLTS版を利用するのが無難である。
Linux Mint
Linux MintはUbuntuを母体としたディストリビューションで、コミュニティーベースでデスクトップ用途を目的に開発が行われている。UI周りではWindowsと操作感覚が近くなるように調整がなされている。
DistroWatchでは2010年頃から上位にランクインするディストリビューションで、2022年現在でもUbuntuよりも上位に位置している。
新バージョンのリリース間隔は2014年以降はUbuntu LTS版をベースにしており、サポート期限はベースとなったバージョンのUbuntuと歩調を合わせている。
なお、Linux MintではUbuntuではなくDebianを母体としたエディションもあり、こちらはLMDE(Linux Mint Debian Edition)と呼ばれている。
MX Linux
MX LinuxはDebian GNU/Linuxをベースとした中量級のディストリビューションで、今日のWindowsやmacOS、あるいはリッチなデスクトップ環境を使ったGNU/Linuxディストリビューションと比較すると比較的マシンパワーを必要としない点に特徴を持つ。
MX LinuxはMEPISと呼ばれるかつて存在したDebian派生のディストリビューションとそこからさらに派生したantiXのコミュニティーが共同で開発しており、それぞれの特徴が引き継がれている。
どちらかというと近年のディストリビューションでは隠す傾向にある情報類を見せる傾向にあり、その分初心者にはやや敷居が高いものの、ある程度GNU/Linuxを使えるようになった利用者がステップアップとして使う傾向にあると言われている。
2018年頃からDistroWatchで上位にランクインするようになった注目されているディストリビューションのひとつにある。
Red Hat系
Red Hat系はレッドハット社が提供している「Red Hat Linux」およびその後継の「Red Hat Enterprise Linux」および「Fedora」を中心とするディストリビューションの系統で、業務用途での利用に強みを持っている。日本においてはかなりの割合でこの系統のディストリビューションが用いられてるといわれている。
Red Hat Enterprise Linux
Red Hat Enterprise Linuxは、レッドハット社が提供しているディストリビューション。後述のFedoraおよびCentOS Streamの開発をベースに開発が進められていて、高い安定性を持っている。
なお、RHELでは他のディストリビューションとは違い、利用するにはサブスクリプション契約が必要になる。Individual Developer Subscriptionではセルフサポートのみで16システムまでの条件で無償での利用は可能だが、それ以上の台数を利用する場合や商用サポートが必要な場合などは有償契約となる。
サポート期間はメジャーバージョンごとにリリースされてから5年間がフルサポート、その後の5年間がメンテナンスサポート期間となる。新メジャーバージョンリリースはおおよそ3~5年ごととばらつきがある。
Fedora
Fedoraは、レッドハット社が支援するFedora Projectが開発しているディストリビューションで、コミュニティーベースによる開発で進められている。Fedoraの開発での成果がCentOS StreamやRed Hat Enterprise Linuxに反映されるため、立ち位置としてはRed Hat Enterprise Linuxの開発版のうち、新機能を先行して取り込んで開発する、アルファ版に近い立ち位置になっている。
FedoraではWorkstation、Server、IoT版のインストールメディアイメージが公式でリリースされており、それぞれの用途に適したパッケージを利用できる。
リリースサイクルは短く、おおよそ半年に1回のペースでリリース、サポート期間はリリースされてから1年強と短く、定期的にアップグレードをする必要がある。新しい機能を積極的に利用したい開発者に適したディストリビューションで、長く安定して使い続ける用途には全く向かない。
Fedora Rawhideを利用した場合はローリングリリースモデルとなり、最新の安定版のソフトウェアを利用することができる。
CentOS Stream
CentOS Streamは、The CentOS Projectが開発しているディストリビューションで、Fedoraの開発成果をもとにRed Hat Enterprise Linuxのリリースに向けた開発・検証の立ち位置で、ベータ版に当たるものとなっている。
現在では上記のような立ち位置になっているが、現在の方針となる以前はレッドハット社とは直接の関係のないプロジェクトで、RHELがリリースされた後、そのソースコードをもとにレッドハット社の商標等を取り除いた上でCnetOS Linuxとして提供していたが、レッドハット社の支援を受けてしばらく経過した後のプロジェクトの方針変更でCentOS Streamに注力、CentOS Linuxの開発は終了の方向となった。
リリースサイクルはRHELに先行する形となっており、サポート期間はRHELのフルサポートに準拠する。
AlmaLinux
AlmaLinuxは、The AlmaLinux OS Foundationが開発しているディストリビューションで、CentOS Linuxの終了を受けてその後継となるディストリビューションを提供する目的でCloudLinux社が開発開始、2021年3月30日に最初の公式バージョンがリリース、 The AlmaLinux OS Foundationが発足して開発・管理が引き継がれた。
その経緯からThe CentOS Projectが終了させたCentOS Linuxの後継となる立ち位置のディストリビューションであり、RHELからレッドハット社の商標等を取り除いたものとなっている。
リリースサイクルおよびサポート期間はRHELに準拠する方針となっている。
Rocky Linux
Rocky LinuxはAlmaLinuxと同様にCentOS Linuxの終了を受けてその後継を目指して開発・頒布されるディストリビューションで、Rocky Enterprise Software Foundationが開発・頒布をおこなっている。
The CentOS Projectの初代創設者のGregory Kurtzer氏がCentOSの当初の目的を達成するために新たにプロジェクトを開始したことにはじまり、初期のThe CentOS Projectの共同創設者のRocky McGaugh氏に敬意を表して名付けられた。最初のバージョンは2021年6月21日にリリースされた。
リリースサイクルおよびサポート期間はRHELに準拠する方針となっている。
Arch系
Arch系はArch Linuxを中心とするディストリビューションの系統で、Pacmanによるパッケージ管理システムと多くのディストリビューションでローリングリリースモデルを採用していることが特徴に挙げられる。Arch Linux自体はデフォルトではGUIが搭載されず手動でのインストールが必要で難易度が高い部類にあるものの、派生ディストリビューションの中にはインストールを容易にし、ユーザーへの利便性を向上させたものもある。
Arch Linux
Arch Linuxは2002年3月から開発が開始されたディストリビューションで、開発者の立場からシンプルで扱いやすいことを目指して開発されている。
一括してインストール作業を行うインストーラー提供されておらず、インストール用のメディアを使ってコマンドラインと設定ファイルの編集を通じてストレージの設定やソフトウェア類を手動でインストールする必要があり、一般的なディストリビューションと比較して初心者にはかなり敷居の高いものになっている。とはいえ、Arch Linuxのインストールや各種設定に関連するドキュメント類が豊富にあり、その内容を読んだ上で操作すれば利用できるように配慮はなされている。
Manjaro
Manjaroは、Arch Linuxを母体に2011年より開発開始、ユーザーフレンドリーなディストリビューションを目指して開発が行われている。GUIを標準搭載し、GUIによるインストーラーや管理ツール類、ハードウェアの自動検出などの機能が追加されており、初心者でも比較的利用しやすいものになっている。
2013年頃からDistroWatchのランキングで上位に位置するようになり、比較的注目度の高いディストリビューションの一つになっている。
EndeavourOS
EndeavourOSは、Arch Linuxを母体に2019年より開発が開始されたディストリビューションで、2019年に開発を終了したAntergos(2012年初リリース)の後継にあたる。Arch LinuxをベースにGUI環境やインストーラーを搭載したものとなっている。インストール時に選択可能なGUI環境の種類が豊富。
2021年からDistroWatchのランキングで上位を位置するようになり、比較的注目度の高いディストリビューションの一つとなっている。
その他の系統
この節では上記のDebian/Ubuntu系、Red Hat系、Arch系のいずれにも該当しないディストリビューションについて記載する。
openSUSE / SUSE Linux Enterprise
openSUSEはopenSUSEプロジェクトにより開発が行われているディストリビューションで、SUSEより開発が行われていた「SUSE Linux」からノベルによる買収でコミュニティーベースでの開発に移行する際に現在の名称に変更された。
SUSE Linux Enterpriseは、上記のopenSUSEの商用版で、RHELと並んで企業での利用に強みを持っている。
YaSTによるテキストベースまたはグラフィックベースの管理ツールが搭載されており、かなりの部分の設定をYaSTで行えるのが特徴に挙げられる。
openSUSEでは固定リリースモデルのLeapとローリングリリースモデルのTumbleweedがあり、Leapはおよそ毎年1回の新バージョンリリース、サポート期間はおよそ1年半となっている。Tumbleweedでは最新の安定版の継続的リリースが行われる。
SUSE Linux EnterpriseではServerでは13年(一般サポート10年、拡張サポートは3年)、Desktopでは10年(一般サポート7年、拡張サポート3年)。メジャーリリースは4年ごとに提供。
Gentoo Linux
Gentoo Linuxは、2000年よりGentoo Foundationにより開発が行われているディストリビューションで、Portageによるパッケージ管理システムでほとんどの場合はソースコードからビルドしてからインストールすることに特徴がある。
一括してインストールすることができるインストーラーは提供されておらず、コマンドラインと設定ファイルの編集を使ってインストールする必要があること、ソースコードからビルドしてインストールする関係上、初心者には敷居が高く、インストールに非常に時間がかかる難点がある。その代わり、ローリングリリースモデルを導入していることで、アップデートをかけることで最新版のソフトウェアを利用できる利点もある。
このディストリビューションを母体に標準でGUIを搭載してインストール作業を容易にしたSabayon LinuxやGoogle ChromeおよびChromiumに特化したGoogle ChromeOS/ChromiumOSが挙げられる。
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